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小説という名の日記B(栞機能無し)
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早速写真を現像し、焼き増しもした。
こっそりと陽也を撮った分以外は、景色のみを除き全部焼き増しした。
二人で写った写真を写真立てに入れる。
写真立てを手に取りずっと眺めていた。

若い肉体の泰造と陽也が写っている。
緊張しているのが明らかに分かる直立不動の泰造の隣で、陽也が自然体でにこやかに微笑んでいる。
十代に戻ったような錯覚。
写真立てを握る手は老人のそれなのに、今も十代でいるような気になる。
昇華しなければならない想いが、昇華どころか益々深まっていく。

陽也君。
そっと名前を呟いて、写真立ての中の彼に唇を寄せた。



この一週間で急激に寒さが増した。
寒くなったね。
受話器の向こうから、陽也の声に混じりテレビの声が聞こえてくる。
写真が出来たと伝えれば、見たいと言う声が弾んだ。

「この寒さでは外が辛かろう」

泰造が気遣えば、陽也が「うーん」と考え込んだ。

写真を撮りに行ったのが一週間前で良かったと思う。
一週間でこうも冷え込むとは思っていなかった。
こんな寒さの中を長時間歩かせる気にはならない。
風邪でもひいたらと気が気でなくなる。
写真を渡すのも、レストランでも何処でもいいから、室内でないと心配になってしまう。

「じゃあさ、俺ん家来ない?」

聞こえてきた言葉に一瞬耳を疑った。



俺ん家に来ない?
聞き間違いではなかったと思う。
都合のいい幻聴ではないと思う。
陽也の家に泰造が行く。
頭の中で何度反芻しても、そうとしか意味が取れない。

「陽也君の家?」

自信が無くて聞き返せば、陽也が小さな笑い声をあげた。

「そうそう、俺ん家に泰造さんが来んの」

聞き間違いでも都合のいい幻聴でもなかった。
行く、と咄嗟に告げた声が殊の外大きく響く。
うわっ、吃驚した。
くすくす笑う陽也に「済まない」と慌てて謝った。



夢心地のまま告げられる住所をメモする。
二度復唱し間違いないことを確かめた。

楽しみにしてる。
その意味が写真を楽しみにしているという事だったとしても、泰造に会うのが楽しみだと言ってるように聞こえて嬉しくなった。















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