小説という名の日記B(栞機能無し)
38
陽也の感覚と泰造の感覚のずれだった。
実質七十もの年齢差で無意識に陽也を庇護していた。
男たるもの奢るのが当然だと思い込んでいた。
だがそれは対等ではない。
友達というのは対等なのだと言外に滲ませている。
無意識に年齢を意識していた事に気付くと共に、世代の違いを新鮮に思った。
だが若者と言っても陽也しか知らない。
他の若者も陽也と同じ感覚なのだろうか。
暫し考え違うと思った。
陽也だから対等を望んでいるのだ。
本当の友達だと思ってくれてるからこそ、庇護されるだけでは嫌だと言っているのだ。
そう思った途端、陽也が一層愛おしく思えた。
分かった、と頷くと沈んだ面持ちが一転し、陽也がふわりと微笑む。
「何処から撮ってく?」
泰造も撮影へと気持ちを切り替え、池から撮る事を伝えた。
池には貸しボートが繋いである。
誰も乗ってないがぷかぷか浮かんでいるボートを撮っておいた。
縁から水面を覗き込む陽也も撮った。
「ちょっ、それやり直し」
横顔を撮られた事に気付いて、陽也が笑いながら詰め寄ってくる。
不快にさせたかと思ったが、そうではなかった。
真正面から堂々と撮らせてくれると言う。
願ってもない言葉。
これを逃したらもう陽也を撮る機会はないかもしれない。
そう思い早速陽也を撮り始める。
池を背景に遠慮なく撮った。
このカメラには陽也の姿が収められている。
それだけで願いは叶ったというのに、また一つ泰造に欲がわいてきた。
泰造と一緒に写った写真が欲しい。
せめて写真だけでも、陽也の隣に泰造の姿があったなら。
写真立てに二人で並ぶ写真を飾れたなら。
願いが一つ一つ叶っていくから次を望みたくなる。
望みを口にするくらいならいいだろうか。
「陽也君、頼みがあるんだが」
一緒に写ってくれないか。
首を傾げる陽也にそう言えば、なんだそんなことかとあっさり笑ってくれた。
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