小説という名の日記B(栞機能無し)
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「へえ、泰造さん、料理出来るんだ。俺ん家は母さんが作るけど、俺も簡単なものなら作れるよ」
オムライス、玉子焼き、サラダ、チャーハン、カレー。
あ、カレーは市販のやつね。
焼き魚定食を食べながら、一つ一つ作れる料理を挙げていく。
時折考え込む仕草が微笑ましい。
「そう言えば知り合いの人は料理作らないの?」
泰造は詰めが甘い。
陽也の問いは当然のものだったが、何も考えずに喋っていた泰造は、思わずヒヤリとした。
「あ、あー、その、知り合いは料理が苦手なんだ。世話になるかわりに俺が作ってる」
「ギブアンドテイクってやつ?家賃がわりに作ってんの?」
「そう、そうなんだ。家賃がわりに俺が料理を担当してる」
一気に水を飲み動揺を押さえつけた。
泰造はこの年にして健康だけではなく、まだ頭もしっかりしていると自負している。
吃ってしまったが、上手く機転を利かせたつもりだ。
「あはは、そんな一生懸命熱弁しなくても」
陽也の邪気のない笑い声にほっとする。
動揺が熱弁になったのは致し方ない。
これからは態度に表さないよう気を付けねばなるまい。
そう誓いつつ、昼飯を終えた。
財布を取り出した陽也を説き伏せ、泰造一人で支払いを済ませる。
公園に誘ったのも泰造で、昼食に誘ったのも泰造だ。
基より陽也に支払わせるつもりはなかった。
撮影に付き合ってくれる礼だと泰造が頑として言い張った為、その場では渋々泰造に任せたらしい。
レストランを出てから、陽也が沈んだ面持ちで口を開いた。
「俺と泰造さんって友達じゃないの?」
最初泰造は意味が分からなかった。
もしかして陽也への恋心に気付いたのかとも思った。
だから友達だと念を押すように強く訴えた。
「幾ら泰造さんが年上だからってこういうのは違うと思う。俺たち友達なんでしょ?だったらこれから俺の分は俺が払うから」
歳なんて二つ違うだけでしょ。
そりゃあ泰造さんが俺の父さんくらいの年齢なら、奢られるのもありかなって思うよ。
けど泰造さんは俺の友達でしょ?
だったら俺にも払わせてよ。
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