小説という名の日記B(栞機能無し)
36
押し入れに仕舞い込んでいたカメラを取り出してみた。
型は古いが十分に使える。
傷が付かないように、レンズをガーゼでそっと拭いた。
積もっていた埃も落とすと、持ち歩いてもおかしくない程度になった。
日曜日まであと三日。
まだ三日もある。
あと三日だ。
その三日が待ち遠しい。
晴れになれと祈りながら三日間を過ごした。
日の出と共に空を見上げた当日、泰造は一人大きく頷いた。
祈りが通じたと思うほどの快晴だった。
雲がくっきりと天高く浮かんでいる。
申し分ない快晴だが、気温は肌寒く、ジャケットを着て公園に出掛けた。
携帯を持ってない泰造の為に、事細かに決めた待ち合わせ場所に到着する。
西門の出口にあるレストランの入り口の前。
陽也に会えると思えば、早めに着きすぎた事も気にならない。
レストランで昼食を摂ってから公園を一周するのもいい。
若い肉体だとジョギングコースを走って一周出来そうな気がする。
陽也は寒くない格好をしてくるだろうか。
寒そうな格好だったらジョギングに誘ってみよう。
きっと困ったように苦笑するだろう。
ジョギングコースを眺めがら、下らない事を考えていた。
「待った?」
その声を聞くだけで楽しくなる。
振り向くとカーディガンを着た陽也がにこりと微笑んだ。
ジョギングコースを走らずに済むぞ。
そう思った途端、泰造は自分の下らない思い付きが可笑しくなり、たまらずぷっと吹き出してしまう。
「何?何かあった?」
興味津々で問われ、今し方考えていた事を話した。
それを聞いた陽也は、苦笑しながらも返答に困っていた。
泰造だけが面白かったようだった。
気を取り直し陽也を昼食に誘う。
陽也もまだ食べてないということで、レストランで食事をしてから撮影に入る事になった。
自炊するようになってから外食をした事がない。
時々出来合いの物を買うが、大抵は自分で料理をしていた。
妻が亡くなる少し前まで台所に一切立ったことがない。
だから料理と言っても大雑把なものだが、切る煮る焼くの一通りは出来るようになった。
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