小説という名の日記B(栞機能無し)
33
「それは皆の見る目がないんだよ。陽也君をちゃんと知れば、君の魅力に気付く人はいると思う」
何、その褒め殺し。
俺を美化しすぎ。
恥ずかしすぎるから止めて。
「美化じゃなくて本当のことだよ」
魅力的な人なら他にいっぱい居るから、俺よりもその人らに言ってやって。
ねえ泰造さん、今一人?
それとも知り合いの人が居るの?
「あ、ああ。知り合いなら今、風呂に入っている」
穏やかな会話に突然紛れ込んできた一言。
泰造は思わず動揺した。
何とか誤魔化したものの、不自然ではなかったろうか。
だがその不安は杞憂に終わった。
人嫌いだったら泰造さんが電話してるのもあんまりよく思わないんじゃない?
泰造を気遣う言葉に再び顔が綻んでくる。
心配ないと答えると、安心したような声が聞こえてきた。
じゃあ本当に俺から電話しても大丈夫なんだね。
そう言われ、泰造は微笑みながら頷いた。
朝早く薬を飲んだから、今の泰造は元の姿だ。
写真立てを買う為だけに起床と同時に薬を飲んだ。
陽也と会う訳ではない。
だが可愛らしい小物を売ってる店に入るのが恥ずかしく、少年の姿で行くのがいいと考えた。
早朝から店が開く訳もないのだが、いつもより早く起きていた。
もっと陽也の声が聞きたい。
そう思うのにその早起きが祟り、不意に眠気が襲ってくる。
堪えきれず欠伸をすると、ふふ、と笑い声が聞こえてきた。
眠そうだね、と言われ罰が悪くなる。
陽也に気付かれたのなら、そろそろ切り上げねばなるまい。
「俺もまた電話する。それとまた会って貰えるかい?」
勿論、と陽也が答えてくれた。
無意識に緊張していたらしい。
泰造はほっと肩の力を抜いた。
じゃあまた。
受話器の向こうの声が告げる。
泰造もそれに「おやすみ」と返した。
電話を切った後も余韻に浸りたくて、眠いながらも暫く其処から動かなかった。
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