小説という名の日記B(栞機能無し)
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「何か変だったかな?」
不安を拭い取りたくて質問した。
「ううん、恋文って言い方が新鮮で」
「なるほど。又の名をラブレターとも言うな」
「あはは、恋文よりラブレターの方が一般的だと思うよ」
陽也が同年代と話すように話してくれている。
柔らかな笑顔を向けてくれている。
泰造の告白に申し訳なさそうにしていた陽也を思い出す。
だが今の陽也は、親しみを持ってくれている。
泰造に微笑んでくれている。
それがこれほどに嬉しいとは。
浮かれて口許がにやけて、大声で叫び出したくなる。
それは予想を遥かに超えた嬉しさだった。
「こうして知り合ったのも何かの縁だと思う。よければ友達になってくれないかい?」
勢いに任せて問うてみる。
答えを待つ間の一瞬、緊張で手に汗が滲んできた。
これでまた拒絶されたなら最早打つ手はない。
余命と引き換えに手に入れた肉体。
この肉体でも拒絶されるなら後はもう絶望しかない。
だが陽也は柔らかく笑んだまま、最高の答えを泰造にくれた。
「うん、いいよ。だけど先ずは名前を教えてくれない?」
いいよ、というのは友達になっていいという事だ。
間違いなくそうだ。
陽也が友達になってくれた。
陽也と友達になれた。
呆気ないほど簡単になれた。
こんなに簡単でいいのかと思うほど呆気なかった。
だがそれは若い肉体を手に入れたからだ。
友達という地位を手に入れられたのは、若い肉体だったからだ。
それは詰まり若さが必要だったのだ。
それでもいい。
愛しい陽也の傍に居れる。
友達としてだけれど、友達としてでも十分だ。
陽也と少しでも親しくなれれば。
陽也と少しでも一緒に過ごせれば。
薬のお陰で手に入れた肉体。
あの薬をくれた男。
あれは絶対に神だ。
神よ、感謝します。
心の中で黒ずくめの神に礼を告げた。
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