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小説という名の日記B(栞機能無し)
26


今度は小瓶ではなく、小さなカプセルだった。
其処で漸く泰造は、違和感を思い出した。

小瓶を取り出した時に感じた違和感。
その違和感が何だったのか、漸く分かった。

この男が元から何かを持っているようには見えなかった。
懐に何かを入れているような不自然な膨らみはなかった。
だが男は懐から小瓶を取り出してみせた。

今取り出したカプセルなら、懐に入っていても何ら不思議ではない。
だがさっきの小瓶は、何処からどうして取り出せたのだろう。

一種の手品か、それとも。
この世の者ではない者の証か。

泰造は男の動きを黙ったまま目で追った。



「これはサンプルです」

男が掌にカプセルを載せて泰造に見せる。

「実際の効果を試せます。但しサンプルなので三十分しか効果はありません。それにこれを飲んだからといって、命を頂く事はありません。実物ではさっき説明した通りになりますが」

さてどうしますか。
男は泰造に選択を委ねた。

だがどうしますかと言われても、直ぐには返事が出来なかった。
断ればいいだけなのに断れない。
さっきまで詐欺だと決めていた。
今でも詐欺だと思う。

だがしかし。
もしや本当では。
いやいや、中身は毒や睡眠薬の可能性が。
だがもしかしたら。

現実では有り得ないと分かっているのに、心が揺さぶられる。



「君が飲んで実際の効果を見せてくれないか」

散々迷って思い付いた考えは、あっさりと切り捨てられた。

「あなた、私の言葉を聞いてましたか?私はこの世の者ではないと言いました。そんな私が人間用に作った薬を飲んでも、効果なんて表れる訳がないでしょう」

なかなか踏み切らない泰造に、男は興醒めしたようだった。
冷めた口振りで詰まらなそうに吐き捨てる。

「私はあなたが飲もうが飲むまいが、どうでもいい。あなたが若返りたいと願ったから来ただけだ。でも若返りたくないなら飲まなきゃいい」

それでは、と男が背を向ける。

「待った」

思わず泰造は、去ろうとする男を呼び止めていた。





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あきゅろす。
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