小説という名の日記B(栞機能無し)
23
いいですよ。そう言って男が懐から取り出したのは、幾つかの小瓶だった。
薄い淡青色の今にも割れそうな薄い小瓶。
どの小瓶も形が同じで、その中に透明な液体が入っている。
どうやらこれが男の言う若返りの薬らしい。
単なる水なのか、毒でも入っているのか、如何にも怪しげだ。
不意に泰造は違和感を感じたが、それが何なのか分からなかった。
兎に角騙されまいと、男に話の続きを促す。
「これをこのカップに移し飲んでください」
目盛りの付いた小さなガラスの容器を渡された。
「液体が空気に触れていい時間は五分です。五分以上空気に触れると効果は保証出来ません。それと必ず分量を守ってください。分量以上でも以下でも命の保証は致しません」
なかなか尤もな事を言う。
丁寧な説明と自信に満ちた態度。
なるほど、詐欺師はこうして人を騙そうとするのか。
「この目盛り通りに飲めば十二時間肉体が若返ります。但し一度飲めば、定期的に服用しなければなりません。また、効果がある間は飲まれてはいけません。ですが効果がなくなった後は、十二時間以内に必ず服用してください。十二時間以内ならば、五分後であろうが三十分後であろうが一時間後であろうが、いつ飲んで頂いても構いません」
これはまた随分と細かな設定を持ち出してきたものだ。
設定を聞くだけなら面白い。
泰造は揶揄うつもりで口を挟んでみた。
「もし薬の効力が切れて十二時間を越えたらどうなるんだね?」
「二週間後に命が尽きます」
あっさりと男が言い放った。
更に、と男は言葉を続ける。
「この薬は十二時間間隔で計算した場合の一年分に相当する量しか渡せません。この薬を一度飲めば、それからは毎日最低一度は服用しなければならず、それ故、日に一度は若返らなければならなくなります」
それはどういう意味なのだろうか。
意味が分からず思わず眉間に皺を寄せる。
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