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小説という名の日記B(栞機能無し)
21


「こんばんは」

いつから其処に居たのだろう。
いつの間に入ってきたのだろう。

気配も感じなかった。
呼び鈴の音も聞こえなかった。

此処は泰造の家で、泰造の家の庭だ。
門だってある。
竹塀で仕切られている。
明らかに泰造の家の敷地内だ。

なのにこの男は泰造の敷地内に無断で進入している。

しかも見るからに怪しい。
全身黒ずくめの出で立ち。
腰まである黒髪。
肌だけが透き通ってみえる。
そんな男からいきなり「こんばんは」と言われても、こんばんは、と返せる訳がない。

「君は何だ。勝手に俺の家に入ってきて。何しに来たんだ」

泰造は不審人物を睨み付けた。



だがその男は泰造の叱責に動じもせず、すみませんと言葉だけで謝ってきた
その飄々とした態度に益々警戒心が強まっていく。

「チャイムを鳴らしても、誰も出て来られなかったので。失礼とは思いましたが、お庭へと回らせて頂きました」

言っている事は強ち間違っていないかもしれない。
陽也の事を考えていたから、呼び鈴に気付かなかった可能性は十分に考えられる。

だが呼び鈴を鳴らして誰も出なければ、留守だと思い去っていくのが通常ではないだろうか。
勝手に庭へと回るなど言語道断だ。



「他人様の家に行って留守だった時、君はいつもそうしてるのかね。世間でそれを何と言うか知ってるか。世間じゃそれを不法侵入と言うんだ」

「それは申し訳ないと思っております。ですがどうしてもお話したいことがあったので、失礼と承知しながらこうして会いに参りました」

「話?それは大した用事なんだろうな。こうして不法侵入するくらいには」

余りにも飄々としている姿が胡散臭く、泰造はその男に嫌みを存分に含んだ口調で返した。

大した用件でなかったら即刻出て行って貰おう。
竹箒で退治してやってもいい。
警察に電話してやってもいい。

ところが男は自信満々にはっきりと言い切った。

「はい、津金様にとって願ってもないお話です」





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