小説という名の日記B(栞機能無し)
5
無断で花を手折るこの状況が我慢出来なくなったのだろう。
ハルヤの気持ちが嬉しい。
友人の怒りを買うかもしれないというのに、花の為に勇気を振り絞ってくれている。
だがこの状況ではハルヤが不利だ。
なにせユウジは愛する恋人の為に花を手折っている。
泰造はその様子を、はらはらしながら窺っていた。
今の若者は何をするか分からない。
だが場合によっては、自分が出て行く覚悟もしていた。
「あのさ、此処の花盗るの、もう止めようよ」
躊躇いがちな声が泰造の耳にも届いた。
「は?何言ってんの?」
「そうだよ、麻美ちゃんを元気付けたくないとか?」
「それってひどくない?」
「麻美ちゃん、毎日花を楽しみにしてるんだよ?」
口々に正論のような持論が飛び交う。
だがそれでもハルヤは引き下がらなかった。
「でもこれって誰かが植えてる花でしょ?」
少女達が蔑みとも呆れともとれる眼差しをハルヤに向けてくる。
「そうなの?」
「知らなぁい」
「でも塀の外って事は違うんじゃない?」
「でもさあ、結局は楽しみにしてる麻美ちゃんに花をあげるなって事でしょ?」
ユウジが眉を寄せハルヤを見た。
少女達の言葉で、ユウジがハルヤに対し気を悪くしたらしい。
「陽也、もう直ぐ麻美が退院するってのに、もっと思いやれないのかよ」
ハルヤが責められている。
浅慮で愚かしい事だ。
憤る泰造の耳に、それでもハルヤの反論する声が聞こえてきた。
「そういう事を言ってるんじゃないよ。これは誰かが植えた花だって話だよ。この家の人が大切に育ててるかもしれないし」
「だったら何で道路側に生えてんだよ」
「それはこの家の人に聞かなきゃ」
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