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小説という名の日記B(栞機能無し)
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「今日は一日のんびりしようか」

「じゃあ偶には旅行に行くか」

何処にそんな金があると思っているのか。
昨日自分がした事も忘れて、旅費のかかる観光地を次々に挙げていく。

「旅行は後に取っておこうよ。今日は家の中でのんびりしたいな」

楽しそうに頷く父親を見て、近くなら旅行もいいかと思った。



無邪気な反面、その反動も激しかった。
倖乃の不倫相手の家族に余程酷い事を言われたのだろう。
短期間で益々悪化した父親の暴力的行為は、今も続いている。
そしてそれを本人は覚えてない。
気を失い目覚めれば、泣きそうな顔をした父親に強く抱き締められた。

起こしても起きないから心配したんだぞ。
何があったんだ?

自分が首を絞めたことも、酷く抱いたことも忘れている。
もしそれを柚季が言えば、父親は自分のやった事を思い出すかもしれない。
思い出せば倖乃を苦しめたと後悔し、自分自身を追い詰めるかもしれない。
こんな時まで父親を悲しませたくはなくて、ぐっすり眠ってただけだよ、と柚季は笑って答えた。



柚季が感じていた恐怖はもう直ぐ感じなくなる。
気を失った途端心配してくれるから、最悪の事態には至らない。

もう少しだけ待って。
何を?と問われ、何をだろ?と柚季も問い返した。
自分の発言に首を傾げる。
何故そんな発言をしてしまったのか。
不思議そうな顔の父親に苦笑する。

一人にはしないから。
絶対に一人にはしないから。
言葉を変えて言えば、真の意味を分からない父親が嬉しそうに頷いた。



次の日から外に食事に出掛けた。
手を繋いで近くのファミレスに行く。

「好きな物をどんどん注文していいよ」

どんどんと言っても食べる量は決まっている。
父親も頼みはしたが、食べきれる量を頼んでいた。

食欲がなくて柚季がサンドイッチを残すと、心配そうな眼差しで見詰めてくる。
気分が悪いのか?
何処か具合が悪いのか?

違うよ。お腹一杯だから安心して。
精一杯微笑んだが、結局サンドイッチは残ったままだった。





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あきゅろす。
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