小説という名の日記B(栞機能無し)
37
明日から外に食べに行こうか。
帰り掛けに買った材料で、その日はシチューを作った。
シチューを食べる間に外食を決意したのも忘れて、明日の夕飯のリクエストをしてくる。
魚の煮付けが食いたいな。
明日になればどうせそれも父親の記憶から消えていくものだった。
だから柚季もリクエストに賛成する。
俺も丁度食べたいと思ってたんだ。
こういうのを以心伝心って言うんだね。
以心伝心が嬉しかったらしい。
片付けも終わらぬうちに倖乃の部屋に連れ込まれた。
明日学校に電話しなきゃな。
馬鹿みたいに喘ぎながら、柚季はそんな事を思った。
翌日学校に電話を入れた。
夏期講習とは言え夏休み期間だから、休んでも単位に何の影響もない。
ただ柚季が休めば心配する人がいる。
夏期講習に来なくなった柚季を心配して、担任に事情を聞くかもしれない。
だから親戚に不幸があり、夏休みの残り期間を他県で過ごす事になったと担任に連絡を入れた。
始業式には出て来るからと、叶わない約束もした。
父親が起きてくる前に、用件を伝え通話を終わらせた。
冷蔵庫にあるものを使い切ろうと、朝から盛大に料理を拵える。
盛大すぎる量を見て、今日は外食の必要はないなと独りごちた。
「今日は何の日だったかな?」
食卓に並んだ数々の料理を見て、父親が困った顔で問うてくる。
いや、忘れてる訳じゃないんだぞ。
倖乃との大事な記念日を忘れる訳がないじゃないか。
問うた後直ぐに慌てて弁解をしていた。
記念日でも何でもない日。
少なくとも柚季にはこの日に何かを祝った記憶はない。
日にちの感覚すらない父親は、きっと今日が何月何日であるかも知らない。
「恋人になった記念日だよ」
否定したくなくて口から出任せの言葉を吐いた。
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