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小説という名の日記B(栞機能無し)
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「倖乃?どうした?」

顔色を失った柚季を裕隆が心配げに覗き込んでくる。
十万という金額を押す指先が震えた。

大丈夫、何でもないよ。
無理矢理微笑んだが、目頭が熱くなった。
頭の中は真っ白

ユキ、今夜はシチューが食いたい。
さっきまで心配げだった眼差しがコロリと変わる。
そうだね、今日はシチューにしようか。
父親の手を取り銀行を出た。



何も考えたくなかった。
茫然自失ながらも父親の問い掛けには上手く答えていたらしい。
家に帰り着けば父親が抱き締めてきた。

何でユキは悲しそうなんだ?
父親の問い掛けに黙って首を横に振る。
答えようがなかった。

シチューだったっけ?
ぼんやりと思い出し問えば、カレーだろ?と笑われる。
そうだったね。
否定せずに頷いた。



ごめんね。
呟きが父親の耳に届いた。
どうした?と眉を下げ問うてくる。

一人にしてごめんね。
もう一人にしないから。
これからはずっと一緒に居よう。

なんだ、そんな事か。と父親は笑った。
当たり前じゃないか。
そう言って無邪気に笑った。
心から楽しそうな笑顔に、無性に泣きたくなった。

明日からどうしようか。
父親に問うても無駄だと知りながら口から零れた。
それは独り言に近かった。

一緒に居ればいいじゃないか。
ソファーに座った裕隆が柚季を手招きする。
その膝に跨り、勿論一緒に居るよ、と返事した。



言っても仕方のないことだった。
起こってしまった事はどうにもならない。
十万という全財産で何が出来るのか分からなかった。

「そうだ、良いこと考えた」

突然微笑んだ柚季にキスを降らせながら、何?と裕隆が問うてくる。

「毎日美味しいもの食べに行こうか。料理も洗濯も掃除も疲れちゃった。俺にも休憩させて?」

それは名案だ。
倖乃の料理は美味いけど、毎日だと倖乃も疲れるよな。

父親が目を輝かせる。
愛する倖乃の為に外食を決意していた。





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