小説という名の日記B(栞機能無し)
34
講習が終わり陽一に起こされた。
「ひたすら爆睡って何しに学校来たんだよ」
そう言って呆れたように笑う陽一は、いつも通りの陽一だった。
その変わらぬ態度にほっとした。
安心して自然と笑顔が浮かんだ。
「この前はごめん」
素直に言葉が出て来た。
「俺もごめん」
反対に謝られ思わず首を左右に振った。
陽一が謝る必要はない。
陽一は悪くない。
それでも謝りたいんだ。
陽一はそう言って言葉を続けた。
無理に話さなくてもいい。
だけどどうしようもなくなったら俺を頼ってくれないか。
いつでも待ってるから。
俺が居ることを忘れないでくれ。
話はそれだけだと言って、脇腹を擽ってくる。
身を捩り笑う柚季を見て、陽一も楽しそうに笑っていた。
陽一のお陰で穏やかな時間を失わずに済んだ事を嬉しく思う。
完全に柚季に非があったのに、陽一はそれを笑って許してくれた。
それどころか気遣ってもくれた。
無理をして学校に来て良かった。
心からそう思った。
電車の中で「また明日」といつもの挨拶をする。
明日があるのか分からないが、それでもその言葉を告げた。
じゃあな、と降りていく背を、見えなくなるまで柚季は眺めていた。
電車を降りて家に向かう。
家を目前に直ぐに異変に気付いた。
流れていく白い煙。
柚季の家の前からその煙は立ち昇っていた。
走ってその煙に近付いた。
それが何なのか分かった途端、浴室に行きバケツ一杯に水を汲む。
「ユキ、おかえり」
玄関の外、大きな鍋で細かく切り刻んだ札束を燃やす父親が、楽しそうに声を掛けてきた。
父親を無視しバケツ一杯の水を掛ける。
一度では消えなくて三度掛けて火を消した。
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