小説という名の日記B(栞機能無し)
26
「さっきのどういう意味?」
「さっきのって何がよ」
「罪の意識がどうたらって。まさか父さんに会った?」
「ああそれ。昨日会いに行ったわよ。けどあんな狂ってんじゃ話にもなんない。だから態々あんたに文句言いに来たのよ」
漸く理解できた。
これで漸く分かった。
昨日の父親の行動の理由。
この女が原因だったのか。
この女が父親に何か言ったのか。
頭の中がすっと冷めていく。
だが腸だけがぐつぐつと煮え滾っていた。
「父さんに何を言った。何を話した」
怒りを押し殺し女に問うた。
「あんたに言った事と同じよ。けどあんたのお父さん、狂ってんだね。あの女がまだ生きてるんだって。まだあの女と結婚もしてないんだってさ。だから現実を突き付けてやったわよ。」
あんたの愛する女が他人の家庭を見事に壊しましたって、事細かに説明してあげたわ。
「黙れ!」
容赦なく女の頬を叩いた。
「痛っ。何すんのよ」
女が頬を押さえ睨み付けてくる。
それに構わず再び手を振り上げた。
「柚季!」
振り上げた手は女に当たる事がなかった。
思わず腕を掴む陽一を睨み付ける。
「放せよ」
「おいお前、疾疾とどっか行け。もう二度と来んな。じゃねえと今度は俺が殴る。本気で殴ってやる」
陽一は女を見据えていた。
「最低。親が親なら子供も子供。そいつがそいつならダチもダチってとこね」
一瞬怯んだ視線が強気に言い放つ。
ホント最低。
柚季に視線を当て身を翻した。
つかつかと立ち去る後ろ姿を柚季がじっと睨み付ける。
陽一も女が居なくなるまで、その後ろ姿を睨み付けていた。
大丈夫か?
掴んでいた手を放し陽一が問う。
大丈夫。その一言で終わらせた。
帰り道が静かだった。
「さっきの・・・」
「気にしてないから大丈夫」
「それもだけどその・・・」
「あの女が言った事は忘れて」
「けど・・・」
「あの女の言った事は全部嘘だから」
陽一が何を聞きたがっているか分かっていて、次々に言葉を遮った。
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