小説という名の日記B(栞機能無し)
23
真夜中柚季を抱き締めて眠る父親を眺めた。
昼間柚季が居ない間に何かがあった。
その何かが分からない。
分からないが、何かがあったことだけは確かだった。
でなければあの行動の理由が掴めない。
首を絞められたのは初めてだった。
今まで乱暴に抱かれたことは何度もあったが、首を絞められたのは初めてだった。
あの瞬間に感じたのは恐怖だった。
死への恐怖。
裕隆を残していくことへの死の恐怖。
柚季が居なければ父親はどうなる。
きっと生きてはいけない。
柚季が居なければ父親は生きていけない。
父親を残していくことに恐怖を感じた。
倖乃も柚季も居なくなった世界に、たった一人残していくことに恐怖を感じた。
あんな思いをするくらいなら、倖乃への愛を囁きながら柚季を抱いてくれる方がよっぽどよかった。
元に戻って安心した。
だが一度感じた恐怖はもう忘れる事が出来ない。
規則正しい寝息。
ぐっすりと寝入る父親の顔を眺めていると安心した。
安心して何故か泣きたくなった。
額を胸に擦り付け体温を確かめる。
腕を背中に回して存在を確かめる。
体温を確かめても存在を確かめても、一度覚えた恐怖を忘れる事が出来なかった。
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