小説という名の日記B(栞機能無し)
21
夏休みに入り夏期講習が始まった。
裕隆の状態によっては遅刻する時もあるし欠席する時もある。
それでも平常より早く終わるからか、裕隆の状態は良くも悪くもならなかった。
夏休みになってから徘徊はまだない。
けれども執拗に柚季を抱く。
ユキ、愛してる。
告げられる愛に、柚季も倖乃の代わりに愛してると告げた。
徘徊がないからと言って、安心は出来なかった。
学校もいつまで行けるか分からない。
陽一と過ごす一時は、柚季に束の間の平穏を感じさせてくれた。
陽一との時間を手離したくないと思う。
だから陽一にもっと頼れと言われた時は戸惑った。
十分頼っている。
この陽一との時間があるから、学校という穏やかな流れに浸かって身体を休めている。
陽一の言う言葉の意味が分からなかった。
あの時陽一は怒っていた。
だがそれからも普段通りに接してくれている。
言葉にはしないけれど、柚季は陽一に感謝していた。
ホームで振り返る陽一に電車の中から手を振る。
じゃあな。
また明日。
別れ際のいつもの挨拶。
電車に揺られながら気持ちを切り替えた。
家に帰り着き、いつものようにさっさと私服に着替える。
父親の部屋に行こうと一階に降りれば、今日はリビングに父親が居た。
灯りが点いてない所為か何時もより薄暗い。
だがそれは柚季の気の所為で、閑散とした空気がそう見せているだけだった。
真夏の午後の陽射しがリビングに射し込んでいる。
ソファーに座り込んでいる父親だけが、陽射しに取り残されていた。
画面の消えたテレビをじっと見詰めていた。
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