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小説という名の日記B(栞機能無し)
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走って外に出る。
行き先の定まらない徘徊は、裕隆からすれば意味があるらしい。
倖乃との思い出の場所を探しては倖乃を見付けられず、結局当てもなく彷徨う。
裕隆名義のキャッシュカードと通帳を管理しているのは柚季で、裕隆は金銭を持ってない。
だからいつもそう遠くまでは行けない。
以前見付け出した場所に行ってみたが、その何処にも裕隆は居なかった。



いつから居なかったんだろう。
柚季が学校に行った後、直ぐに起きたのだろうか。
何故落ち着いてるかどうか確認しなかったんだろう。
寝ているからと確認しなかった。
それは自分の落ち度。
寝息だけで判断した自分の決定的なミス。
無理して学校に行かなければよかった。
確認してから行けばよかった。

こうして裕隆を探す度に心臓が痛くなる。
学校から帰る度に失敗したと思う。
せめてもう少し柚季が慎重だったなら。
自分のミスだ。
安易に考えていた自分が悔やまれる。
裕隆に何かあったらと考えると、居ても立ってもいられなくなる。
苦しくてたまらなくなる。
裕隆が見付からなくて焦燥感に追われる。



走りすぎて足が限界を迎えた頃、交番の前を通り過ぎた。
ちらりと見えた後ろ姿に思わず足を止める。
あの後ろ姿には見覚えがあった。
はっと引き返し交番に駆け込んだ。

一見若く見えるが三十代半ばの男。
ぼんやりと壁を見詰めたまま、話し掛ける声に何の反応もない。
男が今着ている服は、昨日もその男が着ていた。
矢張りそれは柚季の父親だった。

「父さん」

柚季の声にも振り向かなかった。

君のお父さん?
警官が柚季に気付き声を掛けてくる。
そうです、根本と言います。
家に居なかったから探していたんです。
その声に裕隆が反応した。

「倖乃・・・?」

裕隆の視線が柚季を捉える。
それを受け、心配したんだよ、と穏やかに微笑み掛けた。





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あきゅろす。
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