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小説という名の日記B(栞機能無し)
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基本的に柚季の家は玄関に鍵を掛けない。
それは倖乃が裕隆の留守中に鍵を掛けていた事に起因する。
不倫相手を家に上げ情事に耽るために、倖乃は必ず玄関に鍵を掛けた。
その代わり、小学低学年の柚季に合鍵を持たせていた。
家に帰ったら柚季にも必ず鍵を掛けるようにさせた。
父親には内緒だと、倖乃は鋭い眼差しで柚季に言った。

玄関に鍵が閉まっていれば、裕隆が不安定になる。
不倫現場を目撃した倖乃の部屋で柚季を抱くのは不安定にならない。
抱かれるのは実際は柚季だが、倖乃をその腕に抱いていると思い込んでいるからだろう。
だけど終始柚季が一緒に居る訳じゃない。



小学六年の時だった。
柚季が風呂に入っている間に、裕隆が玄関に行った事があった。
風呂から上がった時に、裕隆の姿がないことに気付いた。
その頃はまだ徘徊は偶にしかなかった。
だから部屋のあちこちを隈無く探した後で、外に探しに行こうと最後に玄関に行った。

裕隆が凝と扉を見詰めて立っていた。
父さん?と声を掛けた途端に、胸倉を掴まれ締め上げられた。
またあいつを入れたのか。
俺が居ない時を狙ったのか。
そう言って何度も揺さぶられた。
扉の外側ならまだしも内側なのに、裕隆は胸倉を掴む手を緩めず詰め寄った。

必死にごめんなさいと謝り、何とかその場は落ち着いた。
柚季、どうしたんだ?
突然まともな事を言った父親に、何でもないと笑ってみせたが、声が震えた。
不倫現場を記憶から消し去ったと言うのに、そういう記憶が蘇る父親をやる瀬なく思った。
そしてその日以来、家に鍵を掛けるのをやめた。



玄関を開けようとした時、異変に気付いた。
扉がきちんと閉まってない。
間にスリッパが挟まっている。
室内に風を入れる為にそうしているようにも見えるが、そうではない事は分かっていた。

扉を開けて靴を見れば散らかっており、裕隆の靴が一足足りない。
急いで部屋を見て回ったが、矢張り部屋の何処にも父親の姿はなかった。





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