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小説という名の日記B(栞機能無し)
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この前された注意を思い出す。
柚季が自分自身を「俺」と言った時、言葉遣いを窘められた。
父さんと呼ばれるのを嫌がる時もある。
けれどもさっきみたいに何も言わない時が多くなった。

裕隆の状態が酷くなるに連れ、何も言わなくなってきた。
これはどういう事なんだろう。
都合の悪い部分が聞こえなくなってしまったのだろうか。
男の柚季の身体と女の倖乃の身体の違いを何も思わなかったように、言葉遣いさえ不思議に感じなくなってしまったのだろうか。

言葉遣いを訂正されないからと言って、良い方向へ向かっているとは思えなかった。



肛孔に残っていた精液は全部出した。
時間もだいぶ経っている。
そろそろ出ていっていい頃かも。
扉を開けてトイレから出る。
矢張り父親は居なかった。
倖乃の部屋をそっと開ければ、裕隆が規則正しい寝息を立てていた。

寝ている父親を起こさないように、静かに扉を閉めて自分の部屋に向かう。
制服に着替えて家を出た。



学校に着くと疾くに二時間目が始まっていた。
すみません、寝坊しました。
後ろのドアから入った柚季を、陽一が呆れたように見てくる。
軽く教師に注意されたが、授業は滞りなく続けられた。

「何でそんなに朝が弱いんだよ」

休み時間になった途端、陽一がいつもの言葉を掛けてくる。
低血圧?と笑って返せば、馬鹿と額を人差し指で弾かれた。



此処に居ると、詰まっていた何かが少しだけ消えていく気がする。
張り詰めていた気が少しだけ緩む。
全部でないのは、柚季が居ない間の裕隆が心配だから。
此処に居る間だけでも何も考えずにいようと思うのに、常に頭の何処かに父親が存在している。

そんな中でも、授業中はなるべく集中するようにしていた。
奨学金の為にも成績を下げる訳にはいかない。
家でも勉強出来る時にしているが、授業中に勉強できるならしておきたい。
そうして何とか身体の痛みに堪えながら一日を乗り切った。














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