小説という名の日記B(栞機能無し)
5
風呂に入ってきたら?と声を掛ければ、倖乃も一緒に入ろう?と言われた。
食事の後片付けを理由に断っても、一緒に入ると言ってきかない。
つい溜め息が出てしまう。
それに気付いた裕隆が、漸く一緒に入るのを諦めた。
「じゃあ先に入るから、片付けが終わったら一緒に寝よう」
裕隆は何の疑問も持たない。
男の身体と女の身体は違うのに、裸を見ても柚季を倖乃だと思い込む。
「片付けが終わったらって、俺を風呂に入らせてくれないの?」
「ユキ、俺なんて言っちゃ駄目だろ。美人が台無しだ」
最近はずっと柚季を息子だと認識出来てない。
ほんの偶に正気に返る時があるが、直ぐにまた柚季を妻だと思い込む。
父親が完全に正気に戻ることはもうないだろう。
貯金もだいぶ減っている。
けれども裕隆がこの様子では収入は望めない。
裕隆を入院させたくない。
費用の面も確かにあった。
だけどそれだけじゃなかった。
ずっと柚季が父親の面倒をみてきた。
小学四年、倖乃が亡くなってからずっと二人で暮らしてきた。
柚季が小学生のうちに入院を思い付いていたなら、事態はまた変わっていたかもしれない。
だけど今では、入院したところで父親が元に戻るか分からないと思う。
いつ退院出来るか分からないのに、入院させたくはない。
第一柚季自身が父親と離れる事を望んでなかった。
優しかった父親を建物の中に縛り付けると考えただけで苦しくなった。
それよりも柚季が面倒を見て、裕隆を支えていこうと思った。
注意された言葉遣いを、柚季は否定せずに謝る。
「うん、ごめん。それで片付けが終わったら風呂に入っていい?」
「勿論、ユキが上がるまで待ってる」
待っていると言ったからには待っているのだろう。
裕隆は倖乃を愛しているのだから。
「うん、じゃあ待ってて」
裕隆に微笑んで片付けを始めた。
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