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小説という名の日記B(栞機能無し)
3


ただいま。
小さく呟いても返ってくる声はない。
けれどもこの家に誰も居ない訳ではない。
ただ制服で会うには躊躇いがあった。

二階に上がり私服に着替える。
それから再び階段を下りて、奥の部屋へと向かった。
深呼吸をしてから、二つある扉のうちの先ずは手前の扉を開けた。

中には誰も居ない。
靴があったから出掛けてはないと思う。
けれどもそれも断定は出来ない。
前例があるから断定するのはまだ早い。
柚季は隣の部屋を確認しに向かった。

隣の部屋の前、再び深呼吸をする。
ドアノブを回し扉を開いて、柚季は静かに息を吐いた。



「父さん」

呆けたように座り込む裕隆に声を掛ける。
聞こえたのか聞こえなかったのか分からない。
依然動かない裕隆に再び声を掛けた。

「父さん」

ゆっくりと振り向く裕隆の焦点が柚季を捕らえる。

「倖乃、おかえり。何処に行ってたんだ?心配しただろう」

裕隆が手を広げて抱き締めてきた。
その腕の中で小さく息を吐き出す。
裕隆の背に両腕を回して、ただいまと呟いた。



「何処にも行かないから安心して。それよりほら、この部屋暑いからリビングに行こう?」

そっと身体を離し手を取ると、裕隆がにこりと微笑んで柚季の手を握り返す。
倖乃は今日も美人だな。
悪戯っぽく笑っているが、裕隆は本気でそう思っている。
だから柚季はありがとうと微笑んでみせた。

裕隆の手を引っ張りリビングへと連れて行く。
ソファーに座らせて、今から食事の準備をすると声を掛けた。

「其処に座って待っててくれる?」

小首を傾げ問うと、身体を引き寄せられる。
裕隆の唇が軽く額に触れてきた。

「勿論ユキの邪魔はしないよ。此処で待ってるさ」

「じゃあ美味しいもの作ってくる」

リビングのクーラーをつける間も、裕隆の視線が柚季を追う。
柚季は一度振り向いて、裕隆が座ったままなのを確認してからキッチンへと向かった。
















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