小説という名の日記B(栞機能無し)
7
美圃が次に出勤してくるまでの十日間、怜生はいろいろ考えた。
何が美圃を怒らせたのか。
何故美圃は怒ったのか。
怜生自身が言った言葉の意味。
怜生の立場と美圃の立場。
子供が産まれないことを責められていた美圃。
それは同性も異性も関係ない。
逆に異性だからこそ、その風当たりも強かっただろう。
知らなかったとは言え、無神経な言葉だったと思う。
自分の立場だけで発言していた。
怜生のそれは、美圃にとっては別れる理由にならない。
美圃自身をも貶めた発言でしかなかった。
怜生の中で、ふっと何かが吹っ切れた気がした。
忌引きが明けて美圃が出勤してきた。
いつもと変わらない態度だったが、それでも疲れているように見えた。
「昼飯を一緒に食べませんか?」
怜生は美圃に声を掛けた。
見上げてくる瞳に力がない。
静かに息を吐いて「いいわよ」と彼女が承諾する。
「但し」
仕事に戻ろうとしたのを呼び止められた。
「但し、私は謝らないから」
弱々しくても芯の通った響き。
はい、と頷いて、怜生は仕事に戻った。
食堂に着き座席を確保した後直ぐに美圃が来た。
「話があるんでしょ」
開口一番そう言った彼女は、姉から話を聞いているようだった。
「この前はすみませんでした」
怜生はいきなり頭を下げた。
その行動は彼女にとって予想外だったらしい。
軽く目を見開いた後、徐々に目を眇める。
「何よ、いきなり。私への同情?だとしたらやめてよね」
「違います。同情じゃありません。ただ俺が気付けなかったことを気付かせてくれたから」
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