小説という名の日記B(栞機能無し)
5
「お気になさらないでください」
礼儀正しい女性に慌てて首を横に振る。
彼女に謝られる方が申し訳ない。
身内ではあっても彼女には何の関係もない。
「妹を許してね。妹は今ちょっと情緒不安定なのよ」
それはそうだろう。
夫を亡くしたのだ。
平気でいられる筈がない。
だが矢張り納得いかない部分があった。
「何か俺、妹さんに嫌われてるんですよね」
苦笑しながら不満を漏らす。
先程の遣り取りからして、この女性は怜生の事を知っているらしかった。
「俺、何かしたんですかね」
気にしてない素振りで聞いたつもりだったが、存外態度に表れていたらしい。
彼女が再び申し訳なさそうな顔をする。
「あれはね。何て言えばいいのかしら」
妹の一番嫌いな言葉をあなたが言っちゃったのよね。
私にもあなたの話を散々聞かせてきたわ。
彼女の言葉であの日の会話を思い起こす。
だが矢張り怜生には思い当たる節がない。
園香と散々考えても結局分からなかった。
今考えても矢張り分からない。
「俺、何か気分を害すようなこと言ったんですかね」
「あなたにその気はなかったけど、妹にとってはちょっと辛い言葉だったかも」
彼女が全てを教えてくれた。
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