小説という名の日記B(栞機能無し)
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恋人の転勤。
それはいい機会だった。
二人の関係に終止符を打つ最後のチャンス。
付いて来いと恋人は言った。
当然のようにそれを言った。
恋人は当然のように俺が付いて来ると思っていた。
でも俺は知っている。
俺に愛を囁くその裏で違う奴にも愛を囁いている。
俺には本気の愛を。
違う奴には偽りの愛を。
恋人は俺が知らないと思ってる。
だけど俺は、恋人が違う奴を抱いてることを知っている。
若しも転勤に付いて行くとして。
俺はまた知らない振りをしなくてはならないのか。
知らない地で、知らない奴の影に怯えなければならないのか。
この地に残りたい。
恋人は俺がそう言うとは思ってもいない。
転勤はいい機会だった。
恋人との関係に終止符を打つ最後のチャンス。
これを逃せば、俺はこれからも苦しまなければならない。
だからそれを告げた。
付いて行けない。
此処に残るよ。
恋人が不機嫌に眉を寄せる。
遠距離だと会えないだろ。
付いて来いよ。
恋人にとってそれは決定事項。
だから俺も決定事項を告げる。
じゃあ別れようか。
笑えない、と恋人が言った。
冗談ではない言葉を冗談で済ませようとした。
本気だから。
その一言と恋人に向けた背中。
恋人が元恋人になった瞬間。
何言ってんだ。
焦る元恋人の声が聞こえてくる。
肩を掴み振り向かせる元恋人に最後の台詞を突き付ける。
俺が何も気付いてないとでも思った?
あんな思いをこれからもしてやる気は更々ない。
完全に終わりだ。
打たれたピリオド。
元恋人がそれをどう受け止めたのか分からない。
青褪め狼狽える姿。
背を向けている俺にはそれが見えない。
だけど完全に終わりを告げたから、俺は振り向かなかった。
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