小説という名の日記B(栞機能無し)
6
ユタはアルにいつでも優しかった。
困った時も、辛い時も、悲しい時も、いつだってユタが傍に居て支えてくれた。
こんな事をするようにはとても思えなかった。
アルが好きでアルの為に創った世界。
ユタはアルを好きだと言った。
アルだってユタが好きだった。
アルだってユタと居れればそれでよかった。
ユタと一緒に居れればそれでよかった。
アルとユタの何が違ったんだろう。
アルの目にユタ以外映さないようにして、他人の目にアルを映さないようにして。
世界を壊して虚像を創って。
アルが虚像に気付くと虚像も壊して。
最後には憎んでほしいなんて。
一体アルとユタの何が違ったんだろう。
ねぇユタ、僕だってユタが好きだよ。
それじゃいけなかった?
アルは問う。
声を震わせ問う。
だけどユタは答えない。
ユタの身体は皮膚が朽ち、骨が見えている。
脳だけが僅かに脈を打つ。
アル、もう直ぐ此処も明かりが消えるよ。
プログラムが終了するんだ。
脳から聞こえる声が小さい。
弱々しくて、脈も途切れていって。
今にも動きを止めてしまいそうで。
ユタ、僕を一人にするの?
僕はユタが居ればそれでよかったんだ。
夢の中でもいいから、僕はもっと君と居たいよ。
アルの声は届かない。
動きを止めたユタには届かない。
全て消えた廃墟の灯り。
入口から洩れる薄暗い灯りは月の光。
動かない茶色の物体はユタの脳。
アルの掌で、それは簡単に包める。
ねぇユタ、僕は一人になっちゃった。
僕はユタが居ればそれでよかったんだよ。
夢の中でもいいから、僕はもっと君と一緒に居たかったんだ。
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