小説という名の日記B(栞機能無し)
1
緑で覆われた大地。
鬱蒼とした森林。
小鳥の囀り。
溢れる木の実や果物。
楽園のような世界。
この世界にはユタとアルしか存在しない。
ユタはアルの友達だ。
ユタとアルだけがこの世界に生き残った。
この世界に何があったのかアルは知らない。
凄まじい衝撃で気を失ったのは覚えている。
その衝撃が何だったのか、それもアルは知らない。
目覚めれば今まで住んでいた街が消え、緑豊かな自然に囲まれていた。
要するにこの世界には僕と君だけなんだ。
僕たちはこの世界の最後の住人なんだよ。
目覚めたアルにユタがそう言った。
食べる物はユタが用意してくれた。
寝床もユタが用意してくれた。
何が起こったんだろう?
ユタに聞いたけれど、教えてくれなかった。
何度聞いても口を割らなかった。
今ではもうアルは諦めている。
今更知っても仕方のないこと。
綺麗な世界でユタと過ごす毎日。
それで十分じゃないか。
前はそう自分に言い聞かせていたけれど、今では本気でそう思っている。
自然が溢れたこの世界で、ユタといつまでも一緒に居たい。
本気でそう思っている。
ユタとの約束事はたった一つだけ。
鬱蒼と茂るあの森。
彼処は深くて迷うから奥へ行ってはいけないよ。
帰って来れなくなるから絶対に行ってはいけないよ。
目覚めたその日にユタがそう言った。
しつこく何度も念を押していた。
だからアルはあの森に行っても、奥まで行った事がない。
ユタの言う通り、行けば迷って戻って来れなくなりそうで。
だからアルは森の入口付近しか行った事がない。
その日は何故だろう。
その日も本当は入口付近で遊ぶつもりだった。
小鳥の囀りに耳を澄ます筈だった。
なのにアルの上空を、薄紫の鳥が羽ばたいて行った。
その鳥が羽を落としていった。
薄紫の綺麗な羽。
その羽が余りにも綺麗で、何故か無性にその鳥を追い掛けたくなった。
そして気が付けば、周りは背の高い木だらけだった。
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