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小説という名の日記B(栞機能無し)
16

また父親の声が聞こえてくる。
もう俺には映希を連れ去る恐怖の対象でしかない。
頼むから喋らないでくれ。
映希を連れて行かないでくれ。
今すぐ一人で帰ってくれ。

だけどその声は告げる。

「さぁ、映希。おいで」

映希が父親に向かいにっこりと微笑んだ。

「うん、今行く」



俺の身体を映希が押し遣る。
おかしい。絶対におかしい。
俺はきつく抱き締めていた。
離すまいと力を込めていた。

なのに力が入らない。
おいでと言った父親の言葉を聞いた瞬間、腕の力が抜けていった。
俺の意思と関係なく抜けていった。
感覚はあるのに、力だけが入らない。

映希が外に飛び出す。
父親の胸に飛び込んでいく。
俺はそれをただ眺めているしか出来ない。

親子の熱い抱擁。
映希の名を呼びながら、俺はそれを見ているしかない。



映希、ごめん。本当にごめん。
好きなんだ。離れたくないんだ。
だから行かないでくれ。
戻ってきてくれ。

だけど二人の身体がどんどん消えていく。
映希が溶けていく。
父親に抱き締められたまま消えていく。

「映希!」

溶けて消える直前、映希が振り返る。
そして俺を見て微かに微笑んだ。
幸せそうに。けれども悲しそうに。
その微笑は俺に向けられていた。



二人が消えたと同時に力が戻ってきた。
外に飛び出しても映希の姿はない。
二人が立っていた場所に行っても跡形もない。

土砂降りの雨。
雨が全てを消していった。
なのにどんなにずぶ濡れになっても、俺の身体は溶けない。
溶けてなくならない。
映希の後を追うことも出来ない。

雨がいつまでも俺を濡らし続けていた。
















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