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小説という名の日記B(栞機能無し)
15

映希!と名前を呼んで、止めさせようとした。
けれども映希がはっきりと自分の意思を告げる。

駄目だ。行くな。
俺だって今なら分かる。
映希の言ってた事が本当だったんだと、今なら十分に分かっている。
妄想じゃなかった。
なのに俺は妄想だと思い込んだ。

だって仕方ないだろ。
現実にこんな事があるなんて思わないじゃないか。
水に濡れれば身体が溶けるなんて、現実じゃ考えられなかったんだ。

土砂降りの雨に打たれているのに、全く濡れてない男。
こうして目で見るまで、まさか本当だったなんて思う筈がないじゃないか。



「映希、行くなよ。もう分かったから、だから行くな。もう絶対こんな事しない。だから行くな」

このまま雨の中に連れ出せば映希が溶けて消えてしまうところだった。
それを考えれば自分の行動が恐ろしくなる。
俺自身の手で映希を失おうとしていた。
そんなの、堪えられる訳がない。

もう二度としない。
雨の日は一歩も家から出さない。
濡れたままで映希に触ろうともしない。
もう水には近付けないから傍に居てくれ。



庭に立つ映希の父親が言う。
俺に向かって冷めた視線を寄越す。

「ねぇ君、君の世界でしか通用しない常識もあるんだよ。それが正しいかは君が決める事じゃない。君は映希が好きだったんでしょ?だったら常識関係なく、何故この子を信じてあげなかったの?」

何か言わなければ。
何か言わなければ映希が行ってしまう。
俺の前から消えてしまう。
嫌だ。絶対に嫌だ。



ずっと掴んだままの映希の手首。
しっかりとその存在はあるのに、今にも消えてしまいそうな気がする。
掴んでいる以上もう濡らしはしないのに、今すぐ居なくなりそうな気がする。

「映希、な?俺と一緒に居よう?ずっと一緒に居よう?」

絶対に濡らすような事はしない。
雨の日に連れ出したりもしない。
だから一緒に居よう?

映希の身体を抱き締めて訴える。
ひたすら懇願する。





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