小説という名の日記B(栞機能無し)
13
「映希は人間だろ。身体が溶けるなんて、何したらそんな馬鹿なこと思い込めるんだ」
「馬鹿なこと?俺、ちゃんと言ったよね?信じられないだろうからって、話した時に言ったよね?」
「信じられないも何も、本当な訳がないだろ。映希の完全な思い込みだろ」
「信じてないって知ってたけど・・・。だけど本当なんだ。だからごめんね、今日は行けないよ」
映希の諭すような声が、我慢していたものに触れた。
自分が正しいと思い込んでいる。
幾ら言っても分かろうとしない。
俺がどれだけ頑張っても映希には伝わらない。
それよりも俺が間違っているような言い方をする。
だったら。
口で言っても分からないなら。
「来いよ」
「ちょっ、やだ。嫌だ」
映希の手首を掴み、無理矢理にリビングの窓へと引っ張っていく。
「ねぇ、嫌だってば。逸成、離して」
「駄目だ。実際に濡れてみりゃいい。そしたら映希だって分かるだろ」
「嫌だって。本当に溶けるんだって」
嫌がる映希に構わず、窓の鍵を開ける。
口で言っても分からないなら、実際に濡れてみればいい。
そうすれば否が応でも自分の間違いに気付く。
間違ってたと分かれば、映希の為にもなる。
鍵を開けた後、窓を開ける。
窓の外に靴はない。
映希と一緒に俺も濡れるつもりだ。
二人でびしょ濡れになって、頭を冷やして、その後風呂に入ればいい。
その時には映希の妄想もなくなっている。
掴んでない方の手で激しく抵抗してくるけど、それももう直ぐ終わる。
けれども不意に映希の抵抗が止んだ。
「あっ、父さん・・・」
思わず顔を見れば、映希が俺の方を見ていた。
俺を見ているのかと思ったけれど、俺ではない。
俺の後ろにある窓。
俺を通り越して窓の外を見ている。
目を大きく見開いて、次には泣き出しそうに目を細める。
何だ?何を見てるんだ?
映希の視線を追って、俺も窓の外を見た。
誰だ、あれは?
其処に居たのは一人の男だった。
明らかに一回り以上年上の男。
その男が俺達をじっと見ている。
だが男の様子が変だ。
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