小説という名の日記B(栞機能無し)
12
「今から出掛けるから風呂はいいよ」
「今から?」
来たばかりなのにまた出掛けると言う俺を、釈然としない顔付きで眺める。
今日もまた俺は、断られても粘るつもりでいた。
「そう、今から」
「来たばかりなのに?」
映希の声が沈む。
どうやら誤解しているらしい。
ちょっと寄っただけだとでも思ってるんだろう。
勘違いが可愛くて顔がにやけてしまう。
「そんな寂しそうな顔すんなって。映希と映画行くんだから」
何故俺は喜ぶと思ったんだろう。
映希が寂しそうにするから、喜んでくれると思ってしまった。
雨だと絶対に出掛けないのに。
それでも雨より俺を優先してくれると、寂しそうな表情から勘違いした。
「ごめん、今日は雨だから行かない」
だから映希がそう言った時は、思わずむっとした。
「何でだよ。俺と行くのは嫌だってのか」
「誰もそんな事言ってないし。雨が降ってるから行けないって言っただけだよ」
またもや雨。
一体いつまでその妄想は続くのか。
この先もずっとか?
一生このままか?
こんなに頑張って分からせようとしてるのに、何で分からないんだ。
苛々しながらもぐっと我慢する。
声を抑えてなるべく冷静になるように努める。
「雨が降ってても濡れなきゃいい話だろ?少しくらい濡れても、拭くもの持ってけばいい」
「だからそういう話じゃないんだって。濡れたら身体が溶けちゃうじゃん」
まだ言うか。一体いつまでこの不毛な状態は続くんだ。
湧き上がる怒り。
我慢しろと、俺は自分自身に言い聞かせる。
だけどもういい加減うんざりだ。
「濡れたって人間の身体が溶ける訳ないだろ。常識的に考えろよ」
「常識?俺は人間じゃないのに、人間の身体に当てはめる方がおかしくない?」
どこまでも拒み続ける。
映希の口調が非難めいて聞こえた。
売り言葉に買い言葉。
どっちが先に売ったんだか。
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