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小説という名の日記B(栞機能無し)
8

最初の頃はしつこくならないように、断られたら直ぐに退いていた。
俺が「そっか」と言うと、映希も「ごめんね」と何度も謝っていた。
最初からしつこくすると映希の負担になる。
それでも雨が降る度に誘うのはやめなかった。

雨の日の平日は朝から映希の家に行った。
一緒に学校に行こうと誘ってみる。
勿論その誘いも断られる。
断られるのが分かっていたから、落ち込みはしない。
了解、じゃあ休むって伝えとくな。
そう言って俺は学校へ一人で向かう。

映希もいつかは俺の気持ちを分かってくれる。
俺はそう思っていた。



けれどもどんなに俺が頑張っても映希は変わらない。
雨が降ってるから。濡れるから。
そう言って頑なに家から出ようとしない。
だから今までは一度断られたら退いていたけれど、粘って何度も誘ってみることにした。

朝迎えに行くと矢張り断られる。

「映希、学校行こうか」

「ごめん、雨降ってるから今日は休むよ」

今までなら「分かった」とここで退いていた。
けれどもこれからはもう少し粘ってみる事にする。

「傘さしていけばいいだろ?」

「傘さしても濡れるから」

「じゃあ濡れないように俺が映希を包んでやるよ」

「そんな事しても濡れるから。ごめん、休むよ」

出来るだけ甘く言ったつもりだったが映希は絆されない。
謝りながらも断り続ける。
それでも粘ってみたが結局は駄目だった。



合羽を持って行った事もあった。

「これなら濡れないだろ?」

「足とか手とか顔が濡れるよ」

「手袋と雨靴、顔は傘で上手く隠せばいいだろ?」

「脱ぐ時だって水滴があるし」

何を言っても映希は譲らない。
雨の日は家から出ないし、俺にも触ろうとしない。
晴れた日は出掛けるのに、雨だと閉じ籠もる。
晴れた日は大人しく抱かれるのに、雨だと俺の身体の水滴がなくなるまでほんの少しも触れようとしない。

「映希ともっと一緒に居たい。雨とか晴れとか関係なしに、一緒に居たいと思うのは俺の我が儘?」

「ううん、俺も逸成と一緒に居たいと思ってる。だけどごめん、俺が我が儘なんだ」





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