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小説という名の日記B(栞機能無し)
7

俺から身体を放した映希がテーブルを見つめる。
腕から消えた温もり。
不意に訪れた寂しさと不安。

「映希?」

「ねぇ、その前に質問はない?」

「質問?」

「うん、質問があったら俺が話し終わってからにしてって言ったじゃん」

テーブルを見つめたまま映希が言う。
確かに話をする前にそう言っていたが、質問と言われても思い浮かばない。

けれども何も質問しないというのも変だろう。
だから、前から一度聞いてみたいと思っていたことを質問することにした。

「そう言えば涙や汗や唾も水だろ?けど俺とキスするよな?汗も掻くよな?親が亡くなった時も泣いたんだろ?」

「体内の成分は大丈夫。水だって家の設備を通したのなら大丈夫だし。要は自然、って言うか成分を身体に合うように調整してないのが駄目ってこと」

せっかく矛盾点を見つけたのに、それも映希独自の論理で打破された。

けれども、まぁそれはそれでいい。
これから何とかしていけばいい。
妄想とは言え、せっかく過去を話してくれたんだ。
これを機会に、俺が支えながら少しずつ映希を変えていこう。



「映希、頑張ろうな」

気合い十分に声を掛ける。

「何を?」

「俺といつまでも一緒に居ようってこと」

戸惑った様子がまた可愛い。
本当に妄想さえなければ最高の恋人だと思う。

「そうだね。居れたらいいね」

一瞬の間の後、映希が微笑んだ。



それから俺は雨の日にさり気なく外へ誘うようになった。
誘い続ければいつか頷いてくれるかもしれない。

俺が誘う度に、映希が困ったように断ってくる。
ごめん、雨が降ってるから今日は無理なんだ。
毎回同じ様な台詞で申し訳なさそうに謝る。

事情を知っているのに連れ出そうとする俺を、不審に思う時もあるらしい。
偶に隠すのも忘れ顔に出る時がある。

それでも喧嘩にならないのは、お互いに我慢してる部分も大きいと思う。





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