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小説という名の日記B(栞機能無し)
6

父さんは川の手前にいた。
今にも川に入ろうとしてた。
「父さん」って呼んだら、振り向いてくれた。
振り向いて笑ってくれた。
じゃあ行ってくる。
そう言って笑った後、川に入ってった。

俺は父さんが溶けるとこも、母さんが溶けるとこも見た。
俺も川に入ろうかと思った。
だけど父さんが迎えに来るって言ってたから。
それまでは濡れるなって言ったから。



「だから俺は父さんとの約束を守ってるんだ」

目の前で両親が溶けるのを見たと苦しそうに語った映希。
儚げなその顔に嘘はない。

だけど、どうして其処まで思い込めるんだろう。
一体何があって、そう思うようになってしまったんだろう。
両親の身に何が起こったのか、結局分からない。
何故そんなに強く信じ込んでいるのか分からない。

症状が全く変わらない。
けれども今が転機だと思った。
これを機会に少しずつ自分自身と向き合ってくれればいい。
俺が傍で支えるから、これを機会に過去を乗り越えてくれればいい。



「そうか、辛かったな」

俺は映希の話を否定しなかった。
けれど矢張り肯定もしない。

「映希、俺のこと好き?」

出し抜けに問うと、映希の頬がうっすら赤く染まる。
恥ずかしそうに小さく頷くのがまた可愛い。
つい衝動のままに抱き締めてしまう。

腕の中にすっぽり包み、その顔を覗き込む。

「俺も好き。映希とずっと一緒に居たい」



本当に妄想さえなければ最高だと思う。
一緒に出掛けようと前から約束していたのに、雨が降るからとキャンセルされたこともある。
もうそろそろ其処から動き出してほしい。

「だから少しずつでいいんだ。そろそろ過去を乗り越えよう」



両親の身体が溶けてなくなったのを態と否定しない。
その上で乗り越えていってほしいと言う。
そうすれば少しずつ過去を乗り越えようとしてくれるだろう。
過去を乗り越えようとすれば、いつか映希も自分の思い込みに気付く日が来る。

そう思い、一緒に過去を乗り越えようと言った。

けれども頷いてくれる筈の映希が、困ったように首を傾げる。
そして俺から放れようとする。





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あきゅろす。
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