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小説という名の日記B(栞機能無し)
5

俺の両親が亡くなったのは蒸発なんだ。
意味が分かるかな?
文字通りの蒸発ってことなんだけど。

母さんも父さんも、そして俺も人間じゃないんだ。
何処か別の生命体らしい。
でも父さんが自分達は人間として暮らしていくんだからって、はっきりとは教えてくれなかった。

だけど母さんは此処の暮らしに馴染めなかったんだろうね。
よく父さんと喧嘩してた。
水に怯えて暮らすのは嫌だって、帰りたいってしょっちゅう父さんに怒鳴ってた。

俺が小学六年のある日、母さんがまたヒステリーを起こしたんだ。
その日は晴れていたのに、また父さんに怒った。
怒って家を飛び出して、三十分くらいして帰ってきたと思ったら、両手に袋を抱えてた。



袋に入ってたの、何だったと思う?
大量の水だよ、水。
近所のスーパーから何本も水買ってきてんの。

んで父さんの前で一本あけて自分の身体に掛けてんだよ。
笑いながら、どばどば水を掛けていってんの。
ほら見なさいよ、此処にいる限り何時かはこんな風になるのよ。
そう言って、笑いながら父さんを睨んでんの。

そりゃあ水を掛けたら溶けるよね。
腕やら胸やらがごっそり溶けて、痛いだろうにそれでも笑いながら掛けるんだもん。
終いには倒れて動かなくなった。
母さんが死んだんだって分かった。



父さんは母さんをどうしたと思う?
残っていた水を掛けて、母さんの身体を全部溶かしちゃった。

その後父さん、俺に言ったんだ。
母さんと仲直りしてくるって。
仲直りしたら迎えに来るからって。
だからそれまでは水に濡れるんじゃないぞって。

泣きながら俺が頷いたら、父さんが俺の頭を撫でてくれた。
そして外に出て行ったんだ。

暫く茫然としてたけど、はっと気付いて慌てて父さんを追い掛けた。
父さんの行きそうな場所が分かんなくて闇雲に走った。
そんで漸く父さんを見つけたんだ。





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あきゅろす。
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