小説という名の日記B(栞機能無し)
3
俺は今まで映希の妄想を、肯定も否定もしないようにしてきた。
そうか、と相槌を打つだけだった。
焦らずゆっくりやっていこう。
そうすればいつか映希も気が付いてくれる。
水に触れても身体は溶けないのだと、いつか分かってくれる。
そう思って今までやってきたが、気付く気配もない。
心の病は全く治らない。
だから映希がこうなった原因を少しでも掴みたいと思うようになった。
風呂から上がり髪を乾かす。
服を着てリビングに戻れば、映希が窓の外を眺めていた。
リビングの大きな窓は、鍵を開ければ其処からも庭に出れるようになっている。
晴れた日は其処から日差しが差し込む。
まだ雨は止まない。
映希が憂鬱そうな顔をしている。
「映希、どうした?」
何故か今にも消えそうな気がして、焦って声を掛けた。
「最近ずっと雨だから・・・」
家に閉じ籠もってばかりなのが辛いのだろう。
ここ三日間、映希は家から一歩も出ていない。
雨に濡れれば身体が溶けると信じ込んでいるから、絶対に外に出ようとしない。
「なぁ、そろそろ何があったのか、教えてくれないか?その・・・、どうして水に濡れたら身体が溶けるって気付いたのか」
映希を傷付けないように問うてみた。
信じ込んでるものを否定しないように、ただ理由を聞かせて欲しいと訴えてみた。
俺の懇願に映希が俯く。
眉を寄せ考え込んでいる様は、言うか言うまいか迷っているようだった。
「映希、辛いなら無理しなくていいからな」
俺としては受け止めてやりたい。
けれども過去を話すのが辛いなら、無理をしてまで話して貰わなくてもいい。
今まで辛抱強く待ったんだ。
これからだって待てるし、これからも支えていくつもりだ。
躊躇う様が痛々しくて、傍に寄ってその身体を抱き締めた。
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