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小説という名の日記B(栞機能無し)
2

俺達は上手くいってると思う。
他の誰が見ても羨ましいと思うんじゃないだろうか。
そう思うほど仲がいい。
第一喧嘩をしたことがない。

映希は大人しくても芯が通っている。
俺は大人しいとは言えないし、そう怯むタイプでもない。
だから喧嘩をしたことがないというのが珍しい。

映希の妄想は続いている。
全く治る気配がない。
水に濡れて身体が溶ける訳がないのに、今も頑なにそう思い込んでいる。

そんな訳ないだろ。
何度もそう言おうと思った。
けれども焦らずいこうと決めていたから、言おうと思う度にいつもその言葉を胸に仕舞い込んだ。
その忍耐が喧嘩に繋がらない原因なのだろうとも思う。



雨が降っていたから映希が学校を休んだ。

「今から行くから」

一言電話を入れ映希の家に向かう。

映希は雨に濡れた俺に触らない。
服が濡れていれば乾燥機にかける。
俺自身が濡れていれば風呂に入らせる。
映希が触るのは、いつもその後だった。



「ごめん、逸成。風呂に入ってきてくれる?」

いつもの事だから仕方ない。
風呂に入っている間に服は乾燥機の中。
その代わりに別の服を用意してある。
映希が着るには大きめの服。
父親の服だと映希が言っていた。

風呂に入りながら思うのは、この浴槽に溜まった湯のこと。

映希は外では勿論、学校でも水に触らない。
絶対に触ろうとしない。
なのに映希の家の中では水に触っている。
浴槽に湯を溜めるし、料理で水も使う。



あれ?水に触れるんだ?
以前映希に尋ねたことがある。

「家の水は地下の水を浄化してあるからね。父さんが設備を作ったんだ」

その妄想は父親が亡くなったことに起因しているのだろうか。
両親の死が映希の心の病の原因のように思える。
だが矢張りその時は死因を尋ねるのが憚られ、敢えて映希の妄想を否定しなかった。





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