小説という名の日記B(栞機能無し)
20
今日にも産まれそうだと聞いていたから、昴を寝所に待機させておいた。
今日は一歩も外に出るなと命令してある。
不本意な眼差しを無視し、恒矢はそれ以上の事を何も教えなかった。
昴に知られる事はない。
昴がこれを知るのは、もう少し後のこと。
昴との最後の会話が、命令だとは。
悪役で終わるのに相応しい。
地下に降りれば、気配に気付いて晶太が書物から顔を上げた。
恒矢だと分かった途端に、明白に落胆の表情を浮かべる。
晶太と慣れ親しむつもりはない。
恒矢は早速本題に入る。
「俺と取引しないか?」
取引?
眉を寄せ訝しげに晶太が繰り返した。
「そう、お前を此処から出してやる」
「本当?」
晶太の瞳が期待で輝く。
ころころと変わる表情。
「但し条件がある」
「何?」
再び表情が変わり、恒矢を不安そうに見つめてきた。
不安になるような事を言うつもりはない。
寧ろ晶太から見れば好条件。
どんなに悪意を込めた言い方をしても、晶太にとっては喜ばしいこと。
不安げな眼差しを見下ろし、恒矢は不遜に言い放つ。
次々に言葉を重ねていく。
「俺はこの世界に飽きた。昴にも飽きた。日本、つまり裏の地球に帰ろうと思う」
その為にお前が俺になれ。
俺に成りすまして、地下牢に閉じ込めたお前を地球へ送ったことにしろ。
地下牢で暮らすより生まれた星で暮らしてみたい。
そう言われたから地球へ送った、とでも言っておけ。
明日婚礼の儀がある。
お前が俺に成りすまし昴と結婚しろ。
国王を欺け。
これからお前が恒矢として生活しろ。
今さっき世継ぎが産まれた。
産まれた子を大切に育ててくれ。
俺の子だ。正真正銘、王族の直系だ。
お前の次にこの世界を統べていく者だ。
しっかり後継者として育てろ。
昴は今、寝所に居る。
昴にはお前から言え。
この事は昴とお前以外、知る者がないようにしろ。
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