小説という名の日記B(栞機能無し)
16
「王子、それがあなたのいう傷付けないという意味ですか」
抑えきれずに昴が問う。
「それがとは?」
「婚礼の儀までに俺達に気持ちの整理をつけろと」
「なるほどね、そう思うならそうなんじゃないか?俺がこいつに会うとこいつが傷付く。お前は俺にこいつを傷付けるなと言った。だから俺はもう此処には来ない。それだけのことなんだけど」
理由なら他にある。
それをこの二人に言うつもりはない。
婚礼までに二人で気持ちを確認しあえばいい。
どうせこの二人のこと。恒矢の意図を掴むことはない。
だったら勝手に悲劇の主人公を気取ってろ。
もう直ぐ世継ぎとなる子も産まれるのに、晶太がこれでは、晶太を支える昴がこれでは、この世界も先が見えている。
急に腹立たしくなり、小窓から手を差し伸べあう二人を放っといて、恒矢は自分の部屋へと戻った。
その夜寝所へと戻ってきたのは、昴の方が早かった。
恒矢が戻ってきた途端、昴が顔を背ける。
我ながらよく此処まで嫌われたものだと思う。
今日の件がトドメを指したらしい。
結果オーライはいいのだけれど、二人が余り追い詰められて貰っても困る。
「昴、別に形だけの結婚でいいじゃないか。俺は形だけ結婚して貰えたらそれでいい」
昴は顔を背けたまま暫く動かなかった。
けれども暫くすると、顔を恒矢へと向ける。
その顔には複雑そうな表情が浮かんでいた。
「それはどういう事ですか」
どういうもこういうも、言葉通りの意味だ。
別に其処に悪意はない。
そう告げれば、更に複雑そうな表情になる。
「王子は俺を、その・・・」
「愛してるんじゃないかって?俺がお前を愛してんのに、形だけでいいって言ったのが納得いかない?」
口籠もる昴に挑戦的に言い放つ。
恒矢は同情がほしい訳じゃない。
それこそ同情されるくらいなら、もっと憎まれたっていい。
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