小説という名の日記B(栞機能無し)
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唇を離し挑戦的に晶太を見遣れば、晶太の瞳からは涙が零れていた。
「世継ぎの心配もないよ。昴と結婚する為に、ある女性に子供を産んで貰うことにしたから」
昴を愛してるから何でも出来るんだよ。
口角を上げる恒矢を、晶太が濡れた瞳で睨み付ける。
昴も顔を背けたまま唇を噛み締めている。
これほどまでに分かり易い二人だと言うのに、互いの想いを口にしない。
もどかしい純愛をいつまで繰り広げるつもりなのか。
「さあ、そろそろ戻ろうか」
また来るよ。
挑戦的な微笑みを残し、恒矢は昴を伴い晶太に背を向ける。
恒矢の後ろで二人が名残惜しそうに見つめ合っていても、気付かない振りをした。
世継ぎとなる子は順調に育っているらしい。
毎日報告が来る。
婚礼の儀は世継ぎが産まれた翌日に執り行うことになった。
出産予定日に出産するとは限らない。
だからいつでも婚礼の儀を行えるよう手筈を整える。
恒矢の希望で身内だけで行う儀式。
まだ日は遠いが、それは昴と晶太を徐々に追い詰めていった。
また来るよ。その言葉通り、恒矢は暇を見つけては昴を伴い晶太に会いに行った。
二人の結婚を聞かされた日から、晶太は胸が苦しくて堪らない。
訪れる度に毎回見せ付けられるキス。
二人の姿を見る度に晶太は苦しくなる。
一人で居ても涙が伝い落ちる。
毎日泣きはらしている。
苦しくて辛くて食事も碌に喉を通らない。
晶太の暮らしどころか、昴まで恒矢に奪われた。
国王は二人の結婚を許したと言う。
まだ幽閉されていない頃に、もしも晶太が昴と結婚したいと言えば国王は許してくれただろうか。
きっと恒矢だから許したのだろう。
晶太にとって国王は父親だったが、何でも話せる存在ではなかった。
威厳があり何処か遠い存在だった。
一定の距離を置かれている気がしていた。
幽閉された今は、その理由が分かっている。
自分は実の息子ではなかった。
本当の息子は別の世界にいた。
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