小説という名の日記B(栞機能無し)
37
聖那と晴翔、この前凄く楽しそうに歩いてたもんね。
話題のすり替え。何時の間にかネックレスから聖那の恋の話になった事に聖那は気付いてない。
「うん、楽しかった。晴翔と買い物に行くの、好きなんだ」
何時も荷物が一杯で車まで往復するんだよ。
この前は一度で済んだけど、前はね。
湖南が晴翔の話に夢中になる。
晴翔と何をしたか、どんな話をしたか夢中になって話している。
どうやら上手くネックレスの事を忘れてくれたみたいだった。
ほっと安堵の息を吐き、聖那の話に相槌を打った。
その後聖那がネックレスについて触れることはなかった。
裕進の部屋に聖那が入ってきた。
回路を休めている時間帯、入ってきた聖那を気遣う眼差しで出迎えた。
「どうしたんだい?ちゃんと休む時間には休まないと回路が保たなくなるぞ」
如何にも何か言いたげな聖那の口が開くのを待った。
「僕ね、凄く変なんだ」
「変?」
眉を寄せ裕進が聞き返す。
「うん、この前街に行ったでしょ。あの時晴翔がネックレスを買ったんだけど、湖南にプレゼントしてたんだよ。僕、湖南の首にネックレスがあるのを見たら凄く・・・」
「腹が立ったんだね」
言葉が分からず口籠もる聖那の続きを裕進が言った。
「腹が立つ?この気持ちを腹が立つって言うの?」
「そうだよ、他には苛立つ、むかつくといった表現もあるね。怒りや不愉快な感情ということだ」
精巧に作られたアンドロイドは、精巧すぎて人間の感情をどんどん学習していく。
複雑そうな顔で裕進が聖那を見つめていた。
「そんな感情は本当は持たせたくなかったんだが。聖那も成長したということだな」
さあもうおやすみ。遅くまで起きてた分、明日起きる時間を遅くセットしなさい。
体内に内蔵してある装置を自分で調整出来るようにしてある。
回路を時間通り休ませる事で、より多くの機能が起動する。
聖那にもそう教えてあった為、聖那も自分の身体の事を分かっていた。
おやすみなさいと素直に部屋を出て行く。
その後ろ姿が見えなくなった後、裕進は厳しい表情で何かを考えていた。
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