小説という名の日記B(栞機能無し)
36
「これ貰ったんだ」
黙っていてもその内バレる。
湖南は街に行った日、何も買ってない。
どう考えても湖南が買ったというには無理がある。
だから内心溜め息を吐きながら本当の事を言った。
「誰から?」
「晴翔から」
「どうして晴翔が湖南にあげたの?」
雲行きが怪しくなった会話。
聖那の表情と声音が変わった。
新たに学習した感情。嫉妬という名の裕進が学習させたくなかった感情。
だが明らかに聖那は湖南に嫉妬していた。
「僕が何も欲しがらなかったから。ほら、聖那は自分のもの買ったけど僕は買わなかったでしょ。だから同情してくれたんだよ」
嫉妬心を煽らないように言葉に気を付けた。
柄にもなく口調も柔らかくした。
アンドロイドがこれ以上の嫉妬を学習しないように、決して湖南が特別な訳ではないのだとやんわりと言って聞かせた。
「晴翔は優しいって聖那も思うでしょ?」
「うん、晴翔は優しいよ。でも」
「優しいから同情するんだよ。この前欲しいものを言わなかった僕が悪かったね。晴翔に余計な気を遣わせてしまった」
何か言いたげな聖那を遮り、あくまでも優しさと同情を強く押し出した。
聖那が嫉妬する必要はない。
晴翔の一番は裕進と聖那だ。
晴翔は優しいだけ。同情しただけなのだ。
聖那に言い聞かせながら、自分自身にも言い聞かせた。
「聖那は晴翔の優しさも好きなんだよね?」
「そうだけど」
「僕は誰かを好きになったことがないから聖那が羨ましいな」
「湖南が僕を羨ましいの?」
「そうだよ。誰かを好きになれる聖那が羨ましい」
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