小説という名の日記B(栞機能無し)
35
何だか分からない。
真摯な眼差しが何かを訴えてくる。
けれども気付きたくない。
気付きたくないなら気付かなければいい。
何故なら晴翔が一番大事なのは湖南ではない。
だから分からない事にした。
だけど。
「安心した?」
「少し安心」
「全部じゃないんだ?」
「湖南、絶対に外さないって約束してくれ」
約束したら安心するのか。
元々湖南はこの研究所の部外者だ。
行き倒れたところを拾われてその流れで住み着いたけれど、この建物で湖南は完全な異分子だ。
だから約束しても居なくなる保証はない。
けれども約束する事で晴翔の不安がなくなるのなら。
「外さないよ。約束する」
「そっか、絶対だからな」
嬉しそうに笑う晴翔が安心してくれればいいと思った。
遅くまでごめん。
何時もより遅く来て何時もより長く居たから、何時の間にか日付が変わっていた。
「僕はいいけど。晴翔は明日仕事でしょ?」
明日と言うより日付では今日になるが、運転と買い物で疲れている上にこんなに遅くまで起きていたのでは、幾ら好きで助手を務めているとは言え仕事がきついだろう。
だけど晴翔は疲労の色も見せずに微笑んだ。
俺は頑丈に出来てるから。それより湖南と話せてよかった。ネックレスしてくれて嬉しかった。もう遅いからゆっくりおやすみ。
湖南も何か言いたかったけれど、結局出て来た言葉は「おやすみ」の一言だけで。
静かに閉まる扉の向こうに消えていく背中を、首の鎖を触りながら見送った。
湖南の首にあるネックレスは今までなかったもの。鈍い色の一見すれば地味なネックレス。
だけどそれはあのアクセサリーショップの中でも値の張るもので、質感がありその存在を控え目に主張していた。
そしてそれに気が付いたのは聖那だった。
「あれ?湖南、それどうしたの?」
首元を凝と見つめた儘、問うてきた。
何時もの無邪気な笑顔がない。
今では笑顔の種類も数多くなったアンドロイドが、無機質な顔をしていた。
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