小説という名の日記B(栞機能無し)
34
まだ何かあるの?
晴翔が何も言わないから、我慢出来ずに再び湖南から話し掛けた。
「ああ、実は渡したいものがあって」
これが本題だったんだ。
どうやら渡すきっかけを掴もうとしていたらしい。
ポケットから何か小さな箱を取り出し、湖南の手に握らせた。
これは何だろう。細長い箱の中身に見当がつかなかった。
渡したいという事は、これを湖南にくれるという事なのだろう。
けれども湖南は何かを欲しがった覚えがない。
「開けてみて」
真剣な声音に逆らえず箱を開けてみた。
「これ・・・」
それは湖南がアクセサリーショップでぼんやりと眺めていたネックレスだった。
何でこれが?あの時湖南は立ち止まって見ていただけだ。
立ち止まって見たのはこのネックレスだけだったけれど、欲しいとは一言も言わなかった。
箱の中で鈍く光る銀色の細いネックレス。何をどう言えばいいか分からなくて、暫く茫然と眺めていた。
なかなか取り出そうとしない湖南を見て、晴翔が箱からネックレスを取り出した。
その手の動きを追っているうちに手が近付いてきて、首に冷たいものが触れた。
「うん、よく似合う」
晴翔が満足そうに笑った。
首につけられたネックレス。
それは湖南につけたネックレスで、湖南の為に買ったという事だった。
「欲しいなんて言わなかった」
ネックレスをつけた儘、小さく声を絞り出した。
「湖南が欲しいからじゃなくて、俺が湖南にプレゼントしたかったから」
「何で?」
「安心したかった、のかも」
「安心?何を?」
「俺の知らないうちに、湖南が知らないとこに行ってしまうんじゃないかって」
何処かに行ってしまうんじゃないかと思ったら、湖南を縛り付ける首輪が欲しくなった。
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