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小説という名の日記B(栞機能無し)
28

「そっか、でも見てみたら何か欲しくなるかも」

「見てみたら?」

何を言っているのだろう。
分かっていたが、気付かない振りで問い返した。

「今日湖南も街に行くからさ、その時欲しいものがあったら言って」

「僕も行くとか勝手に決めないでくれない?」

「そこは諦めて。俺が湖南と行きたいってだけだから」

予想通りの返答。然も湖南と行きたいとか訳が分からない。
何故なら。

「僕を連れて行かなくても聖那が一緒に行くでしょ」

聖那が一緒に行くのだから、湖南まで一緒に行く必要はない。
晴翔だってどうせ裕進の作ったアンドロイドの方が大切なのだ。
気を遣い無理して湖南を誘う必要はない。



けれども晴翔は引き下がらなかった。
意固地になっているかのような湖南に、穏やかに微笑んで静かに語り掛けてくる。

「俺は湖南と行きたいんだよ。意味分かるか?湖南と行きたいつってんの」

言い聞かせるようなそれは有無を言わせなかった。

「湖南を連れて行って、湖南にいろんなもの見せて、湖南が欲しいものがあったら買ってあげたい」

「意味分かんない・・・」

湖南の瞳を覗き込んでくる晴翔の表情が余りにも真摯で、どうしたらいいか分からなくなった。



「だから俺が買ってあげたいんだよ。俺が湖南に何かプレゼントしたい」

だから一緒に行こう。

絶対に行くものか。そう思っていたのに、何だか言い張れなくなった。
欲しいものなんて何一つ思い付かなかった。
行っても欲しいものがあるなんて思えなかった。
けれども、何かプレゼントしたい。そう言われれば、断るのを躊躇ってしまい、つい頷いていた。
晴翔からのプレゼント。何でもいいから欲しくなったとは認めたくなかった。



冷めてしまったんじゃないか?
熱かったホットミルクをまだ一口しか飲んでなかった。
口に含んでみれば温くはなっていたけれど、ちょうどいい温度だった。

一気に飲み干すと、空っぽになったカップを晴翔が取り上げる。
じゃあ着替えて準備しな。
何だか弾んだ声で部屋を出て行った。
何時の間にか朝の不機嫌さは消え去っていた。



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あきゅろす。
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