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小説という名の日記B(栞機能無し)
26

それだけでも十分じゃないかと思う。
湖南には決して与えられない愛情。
それを独占しているだけでも十分だと思う。

それなのに聖那は貪欲に晴翔の愛まで欲しがっている。
素直で真っ直ぐに。そう仕組まれた学習の成果は、晴翔にも真っ直ぐに向けられている。

あの日に感じた温もり。掌の体温。抱き締められた時の温かさ。
湖南が手放したくないと思ったそれらを、聖那は素直に求めている。



はたと我に返った。
今自分は何を思った。
裕進のこと。晴翔のこと。
今自分は何を欲しがった。

あってはいけない感情。
苦しくて辛いだけの要らない感情。
聖那のように好ましい感情だけならいい。
だけど母さんは苦しくて辛い感情しか湖南に教えなかった。
覚えてるのは苦しくて辛くて痛い感情。

「湖南、どうしたの?」

思考を中断され、助かったと思った。
此の儘だと聖那にとんでもない事を言ってしまっていたような気がする。

何でもないよ、と首を振って誤魔化した。
疑う事を知らないアンドロイドは、簡単にそれを信じてくれた。



湖南に恋心を打ち明けてすっきりしたのか、聖那は益々積極的になった。

「お父さん、明日晴翔は仕事休みなんでしょ」

「そうだよ、晴翔とゆっくり過ごせばいい」

裕進の勧めに聖那が晴翔へ笑顔を向ける。

「晴翔、明日僕と遊ぼう」

いいよ、とゆったり微笑む晴翔を、湖南は一言も喋らずに眺めていた。

不意に湖南の方を見た晴翔と目があった。
晴翔が優しげに目許を緩ませる。

「湖南、明日何処に行きたい?」



突然問われ、咄嗟に言葉が出なかった。
その代わりに聖那の不満げな声が響いてきた。

「えー?僕は?僕と遊ぶんじゃないの?」

「勿論、聖那も一緒だけどな。三人で遊ぼうかと」

「なんだぁ、二人じゃなかったんだ」

「おいおい、せっかくの休みなんだから皆で過ごそう。あ、買い物行かなきゃな。ちょうどいい、皆で街に下りるか」



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あきゅろす。
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