小説という名の日記B(栞機能無し)
25
「聖那が教えてくれるなら聞こうかな」
「うーん、どうしよう。あのね、内緒だよ。特に晴翔には内緒だよ」
なんだ馬鹿らしい。この時点で晴翔の名前を出すのは晴翔が好きだと言っているのと同じことだ。
それなのに今からまた名前を聞かなくてはならないのか。
「あのね、僕、晴翔が好きなんだ」
やっぱりその名を聞かされた。
「湖南、どう思う?晴翔も僕の事を好きだと思う?」
「さあ、本人に聞いてみたら?それよりも聖那の好きは愛とか恋とかの好きなんだよね?」
湖南に聞かれても晴翔じゃないのだから答えようがない。
聖那の口から晴翔の名前が出る度に落ち着かなくなる。
つい確認のように問い掛けたが、それは逃げようとして失敗した言葉だった。
聖那がトドメのようにはっきりと自分の感情を告げた。
「うん、そうだよ。僕は晴翔が好き」
「裕進さんに対する好きと同じじゃなくて?」
「うん、お父さんも好きだけど、お父さんと晴翔の好きは違うよ」
「どう違うの?」
「お父さんは優しくて好き。晴翔は恋してるの好き」
「ふうん、確かに裕進さんは聖那を可愛がってるよね」
「うん、だから大好きだよ。それにね、晴翔も優しい。だからきっと晴翔も僕のこと好きでいてくれるよね。好きでいてくれたらいいな」
何だろう。何だか気分が悪い。
これほどのプログラムを組んだ裕進にも吐き気がした。
これほどの裕進の愛情を貰っておきながら、晴翔の愛さえも欲しがるアンドロイドにも吐き気がした。
湖南には何一つない。
湖南が幼い時に母さんも亡くなった。
裕進を投影した身代わりみたいな存在でしかなかったけれど、それでも母さんが亡くなったのは湖南の記憶に深く刻まれた。
この研究所に来るまで、父親とは一度も会った事がなかった。
父親の存在は子守唄にさえなるほど毎日聞かされていたが、父親は湖南という子供の存在すら知らなかった。
裕進の愛情は存在を知らない子供には向かない。
愛した女性を想い、自分達の息子として作った聖那というアンドロイドに向けられていた。
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