小説という名の日記B(栞機能無し)
24
裕進から教えてもらった恋という言葉が気に入ったらしい。
恋って凄いんだよ。人間ってこんな気持ちになるんだね。恋っていいよね。
これでは恋の話に触れてくれと言わんばかりだった。
このアンドロイドを作った裕進は本当に天才だと思う。
湖南よりも余程人間味に溢れている。
これほどのアンドロイドを作れる裕進の頭脳は尊敬に値する。
裕進の遺伝子を受け継いでいる筈なのに、湖南はこのアンドロイドのプログラムが少しも理解出来ない。
きっと湖南は父親よりも母親の遺伝子を多く受け継いでいるのだろう。
だから裕進も湖南を自分の息子だと気付かない。
「ねえ湖南、聞いてる?」
どうやらまた自分の思考の渦の中にいたようだった。
ごめん、ぼんやりしてた。
素直に謝れば、仕方がないなぁ、と無邪気な声で再び話し出す。
「恋の話っていいと思わない?」
何がいいのか分からない。
分からないし話したくもない。
そう思ったけれど、聖那はどうしても話したいらしかった。
人間の感情を持てたのが嬉しいのか、それともただ晴翔の話をしたいのか。
何方にせよ、聖那の話に付き合うほかなかった。
「聖那は恋してるんだね」
うん、と嬉しそうな声は最早アンドロイドではない。
一人の恋する人間のもので。
湖南は息が詰まりそうになった。
けれどもそれを我慢して、聖那に話を合わせていく。
「僕ね、好きな人が居るんだ」
「へえ、誰?」
「えへへ、知りたい?」
知りたいも何も聖那の好きな人が誰かなんて疾うに知っている。
聖那の態度を見れば丸分かりだし、何よりも裕進と聖那の会話を聞いていたのだ。だから聖那の好きな人が誰かなんて、聞かなくても分かっている。
今更聞く必要はないし、何だか聖那の口からその名を聞きたくないと思った。
だから知りたいとは言わず、湖南が話すなら話を聞くという姿勢をとった。
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