小説という名の日記B(栞機能無し)
22
研究所に戻った時、其処に聖那は居なかった。
既に休んでいる時間、リビングでは裕進が起きていた。
「湖南、座って」
晴翔に促され裕進から離れたテーブルの席に座る。
裕進は何も言わなかった。
差し出されたホットミルク。
最初と比べると上手になっただろと微笑まれた。
「明日から朝も作るからちゃんと起きろよ」
聞きようによっては寝汚いと言ってるみたいだ。
そう思いながらも本気じゃないのが分かったから、敢えて憎まれ口は叩かなかった。
「って事で裕進さん、湖南はまだ此処に居ますから」
思わず肩が跳ねた。
カップの中のミルクも揺れた。
裕進を見れずにカップだけを見つめた。
「勝手にすればいい」
ただ一言言い残して、裕進がリビングを後にした。
何であんなこと・・・。
漏れた声は音になっていなかった。
それなのに晴翔には届いたらしい。
「湖南に居てほしいっていう俺の意思を示しただけだ」
居てほしいと湖南に言ったのは、晴翔が初めてだ。
今までに言われた事がなかった訳じゃない。
母さんに言われた事ならある。
けれどもそれは、裕進と母さんの血を受け継いだ湖南に居てほしいという意味で。
湖南自身に居てほしいと言ったのは、晴翔が初めてだった。
湖南自身を気に掛けてくれて、湖南自身に居てほしいと言ってくれる。
何だかよく分からない。
よく分からない感情が生まれてくる。
今まで恐れていた感情。
裕進の事だけを語っていたママの記憶。
晴翔に感じるこれは。
激しく戸惑った。
そんな筈はない。
だけどこれは。
戸惑ってどうしようもなくなって。
おやすみと一言告げて、湖南は部屋へと逃げ出した。
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