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小説という名の日記B(栞機能無し)
21

取り敢えずホットミルクが湖南にとって特別なものだと気付くくらいには、湖南の存在を気に掛けてくれている。
だったら晴翔に免じてもう少し居てもいい。
裕進に嫌われていると分かってはいるけれど、完全に拒絶されるまで、血の繋がった父親の傍に居てもいいんじゃないだろうか。

「もしまた今度僕が出て行く時は、絶対に引き止めないで」

「それって今は出て行かないって事か?」

自分がそう仕向けた癖に、遠慮がちに問うてくる。

「晴翔に免じて我慢するよ」

だけど今度出て行くと決めた時は引き止めても無駄だから。



仕方なく留まるんだという態度を態と見せた。
裕進の傍で湖南が暮らしていくというのがどんな事か知っていて、裕進に真実を告げろとも言わない。
真実を告げる気のない湖南に、ただ晴翔の為に此処に居ろと言う。

「じゃあその時は俺も一緒に出て行こうかな」

ほんの僅かな意趣返しの心算で放った言葉に、そう返されるとは思ってもなかった。
何だか背中がむず痒い。
騙されるな、確りしろ。
そう思いながらも言葉が見つからない。
たまらなくなって遂に湖南は俯いた。



「戻ろうか」

晴翔が湖南の手を取る。
大人しくその手に引っ張られ、暗い夜道を研究所目指して歩いた。

聖那と手を繋いだ事があった。
けれど聖那はアンドロイドで、その手は冷たくもなかったが温かくもなかった。
こうやって人間の体温を掌で感じたのは初めてかもしれない。

母さんと手を繋いだ事はあっただろうか。
記憶を探っても出て来ない。思い出せない。
ママと呼んでいたあの頃、裕進の話をしていた記憶しかない。

人間の手の温もりは、こんなに身体に染み渡ってくるものだったのか。
悪くない温度。この温度がなくなるのは嫌だな、と思った。



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